「LLMって、結局のところ何なんですか」。そう聞かれて言葉に詰まった経験はないでしょうか。生成AIと何が違うのか、なぜ堂々と間違えるのか。触ったことはあっても、人に説明できる形で整理できている方は多くないはずです。
LLMは意味を判定しているのではなく、次に来る言葉を確率で選び続けている仕組みです。当社は自社メディアの記事制作にこの技術を日常的に使い、出てきた原稿を機械で測り続けてきました。実測から見えたのは、出てくる文章の崩れ方に型があることでした。
この記事では、仕組みと用語の地図に加えて、間違いが起きる三つの条件と、業務ごとの線引きまでをお伝えします。読み終えるころには、社内で説明できる言葉と、明日決められる判断がひとつ手に入るはずです。
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先に結論|LLMは次の言葉を予測する仕組み
まず最初に、結論からお伝えします。LLMは意味を判定しているのではなく、次に来る言葉を確率で選び続けている仕組みです。
この一点を押さえると、なぜ堂々と間違えるのか、どこまで任せてよいのかが、いっぺんに説明できるようになります。
- LLMの正体は、次の言葉を確率で選ぶ予測の仕組みです
- 間違いは気まぐれではなく、3つの決まった条件で起きます
- 任せる仕事は「あとで確認できるか」で線を引けます
1つ目は、LLMが言葉を予測する仕組みだということです。大量の文章から「この言葉のあとには、この言葉が来やすい」というつながり方を学び、その確率にしたがって一語ずつ選んでいきます。IBMはこれを、巨大な統計的予測マシンとして機能する、と表現しました。仕組みのうえでは、人が意味を分かって書くのとは別の手続きが動いています。
2つ目は、間違いの起き方に決まった型があるということです。間違いが出やすいのは、答えが分からないときに推測で埋める場面、知識の締切日より新しい話を聞く場面、そして入力が長くなって真ん中を見落とす場面の3つです。このどれかに当たる場面を見分けられれば、事故はかなり減らせます。
3つ目は、線引きが自分たちで決められるということです。当社が生成AIで書いた初稿47本を機械で測ったところ、同じ文末が3回続いた箇所のある原稿が34本、全体の72%にのぼりました。崩れ方は決まっているので、どこを人が見るべきかもはっきりします。
読み終えるころには、「この業務は任せる」「ここは人が承認する」という線を、根拠を添えて社内で説明できる状態になるはずです。
LLMとは何か|AI・機械学習との関係
この章では、LLMという言葉が何を指しているのかを整理します。名前の由来と内部で起きていること、そしてAIや機械学習との位置関係までを順に見ていきましょう。ここを押さえておくと、あとの章で扱う「なぜ間違えるのか」が理屈で分かるようになるはずです。
- Large Language Modelの意味
- 「大規模」が指すデータと重みの量
- 次の単語を予測する統計的な仕組み
- AIに確立された定義はない
- 機械学習とディープラーニングの位置
- 生成AIとLLMは分類の軸が違う

Large Language Modelの意味
LLMは Large Language Model の頭文字を取った言葉で、日本語では大規模言語モデルと訳されます。読み方はそのまま「エルエルエム」です。
中身を一文で言えば、大量のテキストを学習して人の言葉を扱えるようにしたプログラムのことになります。文章を読んで要点をつかむ、続きを書く、別の言語に置き換えるといった作業を、ひとつのモデルでこなせるのが特徴です。
日本政府の文書でも、この技術は名前を挙げて扱われています。総務省と経済産業省がまとめた「AI事業者ガイドライン」を見てみましょう。ここでは大規模言語モデルに代表される基盤モデルという表現が使われ、さまざまなサービスを支える個別モデルを生み出すコアの技術基盤だと位置づけられました。そこから派生するモデルの開発や、開発過程から得られる知見という観点で、従来のAIとは異なる性質を持つという整理です。
つまりLLMは、単体で完成した製品というより、いろいろなサービスの土台になる部品だと考えると分かりやすいでしょう。
「大規模」が指すデータと重みの量
頭についている「大規模」は、実は二つの意味を同時に指しています。学習に使った文章の量と、モデルの内部に持っている数値の量です。
| 何が大規模か | 中身 | たとえるなら |
|---|---|---|
| 学習データ | 書籍・記事・Webサイト・プログラムのコードなど、数十億から数兆語ぶんの文章 | 読んだ本の冊数 |
| パラメータ(重み) | 言葉と言葉のつながりの強さを表す数値。IBMの説明では数十億から数兆にのぼる | 覚えた言い回しの引き出しの数 |
重みという言葉が分かりにくいので補足します。これは「この単語のあとには、あの単語が来やすい」という関係の強さを、数字で持っておくためのものです。学習とは、この数字を少しずつ調整していく作業にほかなりません。
数が多いほど細かい言い回しを扱えますが、そのぶん動かすのに必要な計算力も電力も増えていきます。あとで触れる小さなモデルという選択肢は、ここのバランスを変えたものだと考えてください。
なお、言葉のつながりを確率で扱う技術そのものは以前から存在しました。かな漢字変換の候補の並び順や、スマートフォンの予測変換にも同じ発想が使われています。もともと言語モデルと呼ばれていたのはこうした統計的な予測の仕組み全般で、その規模を極端に大きくしたものが大規模言語モデルにあたります。
次の単語を予測する統計的な仕組み
LLMが文章を作るとき、内部でやっているのは意味の理解ではなく確率の計算です。
まず入力された文章を、トークンと呼ばれる小さな単位に切り分けます。単語まるごとのこともあれば、単語の一部や1文字のこともある単位だと思ってください。
そのうえで「ここまでの並びなら、次に来る可能性がいちばん高いのはどれか」を計算し、一つを選びます。選んだあとは、それを含めた並びから次をまた計算する流れです。この繰り返しで文章ができあがっていきます。
IBMはこの動きを、次の単語を繰り返し予測する巨大な統計的予測マシンとして機能する、と説明しました。
ここから先は当社の見方になります。仕組みのうえでは、意味を判定しているのではなく次の言葉を確率で選んでいる、と捉えるのが実態に近いでしょう。学んだのは言葉の並び方のパターンであり、内容の真偽を確かめる手続きは別に用意されていません。
この方式を大規模に実用化できるようになったのは2017年からです。「Attention Is All You Need」という論文でTransformerと呼ばれる構造が提案され、文章を先頭から順番に処理しなければならないという制約が外れました。計算を分割して同時に進められるようになったため、扱えるデータ量とパラメータ数を一気に引き上げられたのです。
この仕組みは、得意な作業もはっきり決めています。要約、言い換え、翻訳、表記の統一のように、材料が手元にそろっていて、それを別の形に置き換えるだけの作業なら、精度は高くなるでしょう。逆に、手元にない事実を自分で用意しなければならない作業は苦手です。
ここが、のちほど扱う間違いの話につながります。正しい文章も、もっともらしいだけの誤った文章も、まったく同じ計算から生まれるからです。モデルの側から見ると、両者は同じ手続きの結果として並んでいるにすぎません。
AIに確立された定義はない
意外に思われるかもしれませんが、AIという語には万人が認める定義がありません。しかもそれは、誰かの怠慢ではなく公式に認められた状態です。
AI事業者ガイドライン(第1.2版)は、2026年3月31日に総務省と経済産業省が公開した文書です。ここにはAIについて、現時点で確立された定義はなく、広義の人工知能の外延を厳密に定義することは困難であると明記されました。そのうえで、このガイドラインの中でのAIは、AIシステム自体または機械学習をするソフトウェアやプログラムを含む抽象的な概念として扱う、と範囲を区切っています。
実務への示唆はシンプルでしょう。相手が「AI」と言ったとき、その語が何を指しているかは相手ごとに違うと考えたほうが安全になります。社内の企画書でも、AIという語だけで済ませず、どの層の話なのかを一段掘って書くほうが誤解を防げるはずです。
機械学習とディープラーニングの位置
四つの言葉は、大きい順に入れ子になっていると考えると整理できます。
| 用語 | 位置づけ | ひとこと説明 |
|---|---|---|
| AI | いちばん外側の概念 | 厳密な定義はなく、範囲は文脈で決まる |
| 機械学習 | AIを実現する手法のひとつ | データからパターンを学び、答えを出せるようにする |
| ディープラーニング | 機械学習の中の一分野 | 人の脳を模した多層の仕組みで学ぶ |
| LLM | ディープラーニングで作られたモデルの一種 | 言葉を扱うことに特化し、規模を極端に大きくした |
ガイドラインは、AIモデルを学習データを用いた機械学習によって得られるモデルと定義しました。つまりLLMは、機械学習という作り方でできたAIモデルの一種にあたります。
技術の流れも押さえておくと理解が進むでしょう。2000年代以降、ディープラーニング等によって画像認識・自然言語処理・音声認識が活用されるようになりました。さらに2021年以降は基盤モデルが台頭し、特定分野だけに特化しない汎用的なAIの開発が進んでいます。
生成AIとLLMは分類の軸が違う
ここがいちばん混乱しやすいところです。生成AIとLLMは、上下関係というより切り口そのものが違う分類だと考えてください。
ガイドラインは生成AIを、文章・画像・プログラム等を生成できるAIモデルにもとづくAIの総称だと定義しています。注目すべきは「生成できる」という部分で、これは何をするかによる分類です。いっぽうでLLMは、大量のテキストで学習した言語モデルという何でできているかによる分類になります。
軸が違うので、両者は重なります。画像を作るモデルは生成AIですがLLMではありません。文章を作るサービスは、生成AIでありLLMを土台にしているものが多くあります。「生成AIとLLMはどちらが上位か」という問いには、そもそも答えがないわけです。
対話型のサービスとの関係も同じ理屈で説明できます。世の中で使われている対話サービスは、LLMという土台の上に、画面や安全対策や履歴の管理を組み合わせた製品です。エンジンと自動車の関係にたとえると、しっくりくるのではないでしょうか。
LLMが間違える3つの条件
LLMの間違いは、気まぐれに起きているわけではありません。前の章で見た「次の言葉を確率で選ぶ」という仕組みから、間違いが出やすい条件はあらかじめ決まっています。この章では三つの条件を順に見ていき、最後に当社が自分たちの原稿を測った結果をお見せしましょう。

推測で埋めるハルシネーション
事実と違う内容を、いかにも本当らしい文章で出力してしまう現象は、ハルシネーションと呼ばれます。日本語では幻覚と訳されることもある言葉です。
なぜ起きるのかは、仕組みから説明がつきます。LLMがやっているのは、ここまでの言葉の並びから次に来る言葉を選ぶことでした。問題は、知らないと認めるより、もっともらしく答えるほうが選ばれやすい点にあります。手元の確率が低くても、そのなかでいちばん高いものを選んで文章は続いていくからです。
だから、知識が薄い領域ほど滑らかな嘘が出やすくなります。人間なら口ごもる場面でも、LLMは平然と書き切ってしまいます。これは性能の不足というより、確率で言葉を選ぶ設計の裏返しだと捉えるほうが正確です。
実務での対処もここから導けます。答えの正しさを人が確認できない領域では使わないようにします。使うのであれば、根拠となる文章を一緒に渡して、そこから引用させるのが安全です。
そのうえで、指示のなかに「わからないときは、わからないと書いてください」と明記しておきましょう。Anthropicの技術文書も、この一文を抑制策の第一に挙げています。
知識には2つの締切日がある
LLMには、学習を打ち切った時点より新しい出来事を知らないという性質があります。この区切りは知識のカットオフと呼ばれ、多くの解説記事でも紹介されている論点です。
ただし実態はもう一段複雑で、締切日は一つではありません。モデルを提供している事業者の公式ドキュメントを見ると、二種類の日付が別々の行で公開されています。Anthropicのモデル一覧では、信頼できる知識のカットオフと、学習データのカットオフが別々の行で記載されています。それぞれの意味は次のとおりです。
| 項目 | 意味 | 実務での読み方 |
|---|---|---|
| 信頼できる知識のカットオフ | その日付までの知識が最も広範で信頼できる | 安心して聞ける範囲の目安 |
| 学習データのカットオフ | 学習に使ったデータの、より広いほうの期間 | ここまでは見ているが、確からしさは別 |
この二つは一致するとは限りません。2026年8月時点の同社の公式表では、両者が5か月ずれているモデルがある一方で、二つの日付が同じモデルもあります。学習データに含まれていても、その時期の知識が信頼できるとは限らないと、提供元自身が明示しているわけです。
ここから引ける線は明確です。直近の制度改正や価格、人事のように「新しさ」が命の情報は、モデルの記憶に頼らないようにします。必要なら手元の資料を渡して答えさせましょう。この判断の根拠として、二つの日付の話は社内でもそのまま使えます。
長い入力ほど中間を落とす
一度に扱える文章の量には上限があり、これはコンテキストウィンドウと呼ばれるものです。渡した文章だけでなく、モデルが書いた答えもこの上限に数えられます。学習で身につけた知識が長期記憶だとすれば、こちらは作業机の広さにあたるものです。
近年この上限は大きく広がりました。ただし、広ければ広いほど正確になるかというと、そうではありません。モデルを提供しているAnthropicの技術文書は、トークン数が増えるにつれて正確さと記憶の再現性が落ちる現象に触れ、これをコンテキストの腐敗と表現しています。どれだけ入るかと同じくらい、何を入れるかを選ぶことが重要になる、という指摘です。
研究の裏づけもあります。2024年に学術誌TACLで発表された「Lost in the Middle」は、必要な情報を入力のどこに置くかで成績が大きく変わることを示しました。多くの場合、先頭か末尾にあるときに最も高く、長い文脈の中間に置かれると大きく劣化するという結果です。しかも、長い文脈への対応をうたうモデルでも同じ傾向が出ました。
資料をまとめて渡せば全部読んでくれる、という期待は持たないほうが安全でしょう。大事な条件は先頭か末尾に置きます。関係のない部分は削ってから渡すようにしましょう。この二つは、今日からでも変えられる使い方です。
生成AIの初稿47本に出た型崩れ
ここまでは内容の間違いを扱ってきました。ですが実務でより頻繁にぶつかるのは、内容ではなく文章の形が崩れるほうです。当社がこれを自分たちの原稿で測った結果をお見せします。
対象は、生成AIを使って書いた当社メディアの記事のうち、書き上げた直後に機械チェックを通した記録が残っている47本です。2026年8月に集計しました。
| 測った項目 | 結果 |
|---|---|
| 同じ文末が3文続いた箇所があった原稿 | 47本中34本(72%) |
| 3連続が出た箇所の合計 | 196箇所(1本あたり中央値4箇所・最大19箇所) |
| 196箇所のうち「〜ます」で終わっていたもの | 186箇所(95%) |
| 一文60字超と4文以上の段落 | 該当項目の記録がある14本すべてで発生 |
注目したいのは、崩れ方が散らばっていない点です。表に出した「〜ます」以外の内訳は、「〜です」が7箇所、「〜ません」が2箇所、「〜こと」が1箇所と、いずれもごく少数でした。直すべき場所が一種類に偏っているなら、人が見るべきポイントも絞り込めます。
数字の読み方には注意点があります。まず、この47本はすべて生成AIを使って書いたもので、人が手書きした文章の統計ではありません。
次に、集計項目によって母数が違います。3連続は47本、一文の長さと段落は記録のある14本が対象です。
また、ここでいう初稿は機械チェックを最初に通した版であって、それ以前に人の手が入っている場合もあります。60字という基準も当社の測定ルールであり、文章術の一般的な目安とは別のものです。
そして当然ながら、1つのメディアの47本という記録にすぎません。これをもって世の中の傾向だと言うことはできないでしょう。
同じ偏りが出るかどうかは、測ってみないと分かりません。任せる範囲を決めるより先に、手元の原稿を一度測ってみることをおすすめします。
キーワード選定から構成、AIによる一次執筆、人による編集、WordPress入稿まで一括で対応します。制作リソースの不足や、記事ごとの品質差にお困りの企業向けサービスです。
RAGとSLMは何を解決する選択肢か
LLMの話題では、RAGやSLMといった略語が次々と登場するでしょう。どれも覚えるべき新技術のように紹介されがちですが、実際には前の章で見た弱点のどれを埋めるための選択肢かで整理できます。この章では、それぞれが解決する課題と、自社が検討すべきかどうかの判断軸を示していきましょう。

RAGは知識の更新を切り離す
RAGは Retrieval-Augmented Generation の略で、日本語では検索拡張生成と呼ばれます。答えを作る前に外部の資料を検索し、見つけた内容を材料として渡してから書かせる仕組みです。
この発想の要点は、知識をモデルの外に置いたところにあります。仕組みを提案した2020年の論文「Retrieval-Augmented Generation for Knowledge-Intensive NLP Tasks」は、知識をテスト時に簡単に更新できる点を利点として挙げました。モデルの内部だけに知識を持たせる方式だと、世の中が変わるたびに学習をやり直さなければなりません。ところが参照先の資料を差し替えられるなら、モデルはそのままで最新の内容に答えられるわけです。
先ほどの「知識に締切日がある」という弱点を、正面から埋める手段だと考えてください。前出のAI事業者ガイドラインも、RAGの活用等によりハルシネーションの抑制や、出力過程・根拠の透明性向上が期待されると記しています。
ただし万能ではありません。同じガイドラインは留保も書き添えています。RAGを活用した場合には回答の収束が加速する可能性が高いため、例えばコンテンツの多様性・独創性を必要とする業務には適切でない場合がある、という指摘です。事実を正確に答えさせたい業務には効くいっぽうで、アイデアを広げたい場面ではむしろ邪魔になりうる、という留保です。
SLMの規模に統一された定義はない
SLMは Small Language Model の略で、小規模言語モデルと訳されます。名前のとおりパラメータ数を抑えたモデルですが、どこからが小規模かという線引きは決まっていません。
これは筆者の見解ではなく、政府文書がそう書いています。総務省の令和8年版情報通信白書は、SLMについて規模感には幅があり厳密な定義は統一されていない状況であると明記しました。白書が紹介している例でも、70億パラメータ以下とするもの、140億以下とするもの、数十億から数百億程度とするものが並んでいます。白書自身はおおよそ百億程度までをSLMとして扱う立場です。
では何のために小さくするのでしょうか。白書は二つの利点を挙げています。ひとつは、計算量が抑えられるため計算資源や電力の制約がある環境でも動かせることです。もうひとつは、手元の機器の上で実行できるため通信を必要とせず、個人情報の保護やセキュリティの面でも期待が集まっている点でした。特定の分野に絞って学習させれば、軽くて精度の高いモデルも作れます。
弱点も同じ白書が示しています。パラメータが少ないぶん知識のカバー範囲や複雑な推論には限界があるため、幅広い知識や高度な推論が要る用途では単体で対応しきれません。そこで実務では、RAGで外部知識を補うか、大きいモデルと組み合わせる構成が有効なアプローチとして整理されています。
追加学習とRAGの選び分け
ここで、モデルがどうやって作られるかを一段だけ補足させてください。AI事業者ガイドラインは、学習をこう整理しています。場合によって、汎化性能を形成する事前学習と、必要に応じた継続的な調整を行う事後学習の二つのプロセスから構成される、という説明です。汎化性能というのは、学習していない問いにも対応できる幅の広さのことだと考えてください。
同ガイドラインは事後学習に、特定の専門知識の補完と、人の意図や価値観に沿った応答を制御するアライメントの両方を含めました。ざっくり言えば、前者で基礎ができ、後者で目的に合わせた仕上げが入るという流れになります。
モデルを自社向けに寄せる方法は、この事後学習にあたるファインチューニング(追加学習)と、参照資料を渡すRAGに大きく分かれます。どちらを選ぶかは、扱う情報が変わるかどうかで判断できるでしょう。次の表は、Microsoftの技術文書が示している選定基準を、当社の実務に合わせて整理したものです。
| 判断の材料 | 追加学習が向く | RAGが向く |
|---|---|---|
| 情報の変化 | 内容が安定していて更新が要らない | 最新の情報を反映し続けたい |
| 対象の広さ | 特定の作業で最高の精度がほしい | 幅広い話題に答えさせたい |
| 手持ちの資源 | 学習用のデータと計算資源がある | データや計算資源が限られている |
| 変えたいもの | 答え方のクセや専門性そのもの | 答えの材料になる知識 |
整理すると、追加学習は振る舞いと専門知識を作り込む手段で、RAGは材料を差し替える手段だといえます。社内規程や商品情報のように更新が続くものを覚え込ませようとすると、更新のたびに学習をやり直すことになりかねません。
二択で考える必要もないでしょう。専門分野の言い回しに慣れさせる目的で追加学習を行い、そのうえで最新情報はRAGで渡す、という組み合わせも実際に使われています。
課題から選択肢を選ぶ地図
ここまでの内容を、困りごとから逆に引ける形にまとめました。相談を受けたときは、この順に当てはめると話が早く進みます。
| 起きている困りごと | まず検討する選択肢 |
|---|---|
| 自社の商品や規程について、事実と違う答えが返る | RAGで社内資料を参照させる |
| 最近の制度改正や価格の話が古い | RAGで最新資料を渡す |
| 言い回しや構成が自社の型に合わない | 追加学習、または指示の書き方の見直し |
| 社外に出せない情報を扱いたい | 手元の機器で動く小さなモデルを検討する |
| 反応が遅い、費用がかさむ | 作業を分け、簡単なものは小さなモデルに回す |
もうひとつ、当社が支援の現場で欠かさず確認している観点を挙げておきましょう。外部の検索を備えたサービスでは、LLMの答えは学習時に覚えた内容と、質問された時点で外部を探した内容という二つの経路から作られます。前者に働きかけるのは年単位の長い取り組みになり、後者は今の資料の整え方がすぐ効いてくるものです。
どちらの経路の話をしているのかを区別しないまま対策を並べると、期待する速さと実際の成果が食い違いがちになります。自社で何かを始めるときは、まず後者から手を付けるほうが手応えを得やすいでしょう。
LLMに任せる仕事の線引き
最後は、実際の業務でどこまで任せるかという話です。当社は記事制作の現場でLLMを日常的に使っており、そこで固まってきた判断の手順をそのままお渡しします。渡すものの決め方、返ってきたものの扱い方、そして自社の業務に当てはめる表の順に見ていきましょう。

入力してよい情報の3分類
文章を書かせるときにLLMへ渡すのは指示です。ところが添削を頼む場面では、完成した文章そのものを渡すことになります。しかも添削してほしい文章ほど、まだ世に出ていないものが多いのではないでしょうか。
当社はここを感覚で判断せず、三つの型に当てはめて決めています。
- すでに公開している記事の直しは、そのまま渡します
- 公開前の原稿は、社名や数字を仮の言葉に置き換えるのが原則です
- 発表前の企画が書かれたものは渡さず、自分で読み直します
判断の軸は、その情報が外に出たときに困るかどうかです。すでに公開しているものなら、渡しても増える不利益はありません。反対に、発表前の企画は置き換えようがないため、手元で完結させるほかありません。
技術的な理解も添えておきましょう。プロンプトに文章を渡すという仕組みを、前出のAI事業者ガイドラインはコンテキスト内学習と呼んでいます。学習済みのパラメータを更新することなく、利用者の入力に応じて特定のタスクに対する学習を行わせることが可能だ、という説明です。
ここでいう学習は、学習済みパラメータの更新ではないと当社は読んでいます。だからこそ、公開前の原稿は社名や数字を置き換えたうえで渡す、という運用が成り立ちます。
ただし同ガイドラインは提供者に対し、コンテキスト内学習による不適切な学習への注意喚起や、個人情報を入力する際の留意点を示すことも求めました。サービスごとに入力データの扱いは異なるため、利用規約の確認は欠かせません。
出力の指摘を3つの箱に分ける
返ってきた内容をどう扱うかで、仕事の質はかなり変わります。当社では、指摘を読む前に三つの箱を用意しておく方法を取っています。
- 直す箱には、誤字や表記の揺れ、明らかな文法の誤りを入れます
- 直さない箱へは、意図してそう書いた部分を送ります
- 保留の箱は、どちらとも言えないものに印を付けて次へ進むためのものです
ねらいは、考える対象を保留の箱だけに絞ることです。一件ずつ悩みながら読み進めると、後半になるほど判断が雑になっていきます。前の二つで迷わないと決めておけば、最後の一件まで同じ集中度を保てるでしょう。
保留の箱は半日ほど置いてから開きます。書いた直後は自分の意図が頭に残っているため、指摘のほうが誤って見えるからです。それでも決まらないものは、直さない側へ寄せます。
この手順が効くのは、出力そのものより受け手側の段取りで品質が決まる場面が多いからです。同じ指摘でも、読む順番と決め方を先に用意しておくかどうかで、拾える精度が変わってきます。
AI要約は順位と別の基準で選ぶ
LLMが検索の入口に組み込まれたことで、自社の情報がどう扱われるかも変わりました。当社は2026年8月上旬、自社が関係する3件のキーワードで検索結果を取得しました。取得にはSERP取得API(DataForSEO・日本・日本語)を使い、AIによる要約の参照元を数えています。
8月9日に取得したキーワードでは、検索結果の1位の枠をAIの要約が占め、通常の検索結果は2番目から始まっていました。その要約が参照していたのは7つのドメインです。うち4つは同じページに並ぶ検索結果と重なっていたものの、残る3つは検索結果の1ページ目に存在しないサイトでした。
8月5日に取得した別のキーワードでは、要約の引用元4件のうち2件が動画です。
調べた対象はGoogleの検索結果に出るAIの要約です。ここから読み取れるのは、検索で上位に入ることと、AIの要約に引用されることは別の勝負になっているという姿でした。少なくとも当社の実測では、そうなっていたということです。順位を取れていなくても引用される場合があり、逆に上位にいても引用されないことがあります。
今泉の視点:実は当社自身が、引用されなかった側の記録も持っています。別のキーワードでは、AI要約の枠も含めた並びの11番目に自社の記事が出ていたのですが、同じ画面に表示されたAIの要約が参照していた6つのドメインの中に、当社は入っていませんでした。要約が引いていた6件のうち、2件は法律相談や弁護士のページで、1件は動画でした。同じ画面の検索結果の上位10件を見ると、4件は被害者本人の相談や体験談です。順位の話だけを見ていると、この差はまったく見えません。私が提案の場で必ず確認するのは、順位表ではなく「その要約に何が引かれているか」のほうです。自社が引かれていない理由は、たいてい順位ではなく、書いてある中身の性質にあります。
AIに引用される情報をどう作るかという論点は、それだけで独立した話題になります。当社ではLLMOの考え方をまとめた記事で、質の高い一次情報・専門分野の明確さ・第三者からの言及という三つの軸で整理しました。法人向けの事情についてはBtoB企業向けの解説で扱っています。
明日決める1つの線引き
ここまでの内容を、自社の業務に当てはめる表にまとめます。判断の軸はひとつだけで、出てきたものを人が確認できるかどうかです。
| 扱い | 当てはまる仕事 | 理由 |
|---|---|---|
| 任せてよい | 要約、言い換え、たたき台づくり、表記の統一 | 元の材料が手元にあり、間違いをその場で見つけられる |
| 人が承認する | 社外に出す文章、数字や制度を含む説明、固有名詞の記載 | もっともらしい誤りが混じっても、読んだだけでは気づけない |
| 渡さない | 発表前の企画、取引先の非公開情報、個人情報 | 置き換えが利かず、外に出た場合の影響が戻せない |
この表をそのまま社内に配る必要はありません。むしろ、自社の業務を三つの行のどこかに置いてみる作業自体に意味があります。今週中に一つだけ、任せてよい仕事を決めるところから始めてみてください。
具体的な運用の設計や、どの業務から着手するかの優先順位は、扱う情報の性質や体制によって大きく変わります。判断に迷う場面があれば、当社にご相談いただければ一緒に整理できます。
LLMについてよくあるご質問
まとめ
LLMは仕組みのうえで意味を判定しているのではなく、次に来る言葉を確率で選び続けています。だからこそ、知らないことを推測で埋め、知識には締切日があり、長い入力では真ん中を見落とすのです。この三つの条件が分かれば、どこで人が確認すべきかも自然に決まります。
- 今週中に、任せてよい仕事をひとつだけ決めます
- 社外に出す文章と数字は、人が承認する工程を残しておきましょう
- 長い資料を渡すときは、大事な条件を先頭か末尾に置きます
RAGや小規模なモデルも、覚えるべき新技術というより、どの弱点を埋めるかで選ぶ選択肢だと捉えてください。まずは自社の業務をひとつ選び、任せるか、人が承認するか、渡さないかを決めるところから始めるのがおすすめです。その線引きに迷われたときは、当社にご相談ください。
キーワード選定から構成、AIによる一次執筆、人による編集、WordPress入稿まで一括で対応します。制作リソースの不足や、記事ごとの品質差にお困りの企業向けサービスです。
