「カスタマージャーニーを描きましょう」と会議で言われて、うなずきながらも中身がつかめなかった。あるいは、一度作ってはみたものの、その後まったく開かれずに終わってしまった。どちらもよく耳にする話です。
当社は月間4,500万セッション級のメディアを含む支援の現場で、この「顧客がどう動くか」を施策の配置に変える作業を重ねてきました。この記事では、カスタマージャーニーの意味と、マップの作り方、そして作った後に使い続けるための考え方までを整理します。
読み終えるころには、きれいな図を作ることが目的ではないと分かり、自社のどこに穴があるかを書き出せる状態になっているはずです。
コンテンツ監査からトピッククラスター設計、KPI・CVR設計まで、検索流入と問い合わせにつながるメディア戦略を整えます。記事は増えたのに成果が伸びない、という企業向けのコンサルティングです。
先に結論:顧客が動く順番を1本の線にすることです
まず最初に、結論からお伝えします。
- カスタマージャーニーは、顧客が知って迷って決めるまでの道筋
- 目的は図を作ることではなく、チームの認識をそろえること
- 各段階に置くページを決めるところまでやって、はじめて効く
1つ目は、カスタマージャーニーが「顧客が動く道筋」だということです。商品を知り、比べて迷い、最後に決めるまでの流れを1本の線にして描きます。その線を図にしたものがカスタマージャーニーマップです。
2つ目は、目的が図の完成ではないということです。ユーザー体験の研究機関も、マップを作るという活動そのものが最も価値ある部分だと述べています。きれいな図を目指すほど、中身が薄くなってしまうのです。
3つ目は、各段階に置くページを決めるところまで進めるということです。認知の段階には何を、比較検討の段階には何を置くのか。ここまで決めると、自社にどの受け皿が足りないのかが見えてきます。
カスタマージャーニーとは顧客が動く道筋のことです
まずは言葉の意味と、混ざりやすいペルソナとの関係を整理しておきましょう。マップに入れる要素についても、ここで押さえておきます。

言葉の意味と英語での書き方
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知ってから決めるまでにたどる道筋のことです。英語では customer journey と書きます。customer が顧客、journey が旅を意味するので、直訳すれば「顧客の旅」になります。
旅というたとえが使われるのは、顧客が一足飛びに購入へ至るわけではないからです。知って、気になって、比べて、迷って、ようやく決める。その道中をひとつのつながりとして捉えるための言葉だと考えてください。
ペルソナとの関係
よく混ざるのがペルソナとの関係です。整理すると、ペルソナは「誰か」を決めるもので、カスタマージャーニーは「その人がどう動くか」を描くものになります。
順番としては、ペルソナが先です。誰の道筋なのかが決まっていないと、時系列を並べても誰の話か分からない図になってしまいます。人物像の作り方はペルソナとはをご覧ください。
マップに入れる5つの要素
マップに何を書けばよいのかは、ユーザー体験の研究機関であるNielsen Norman Groupの解説(2016年7月)が整理しています。一般に含まれる要素として挙げられているのは、次の5つです。
| 要素 | 書く内容 |
|---|---|
| 視点 | 誰の道筋を描くのか |
| シナリオ | どんな場面・目的での話か |
| 行動・心理・感情 | 各段階で何をして、何を思っているか |
| タッチポイントとチャネル | どこで自社と接点を持つか |
| インサイトと担当 | そこから何が分かり、誰が動くか |
最後の「担当」まで書いてあるところに注目してください。気づきを書いただけで誰も動かないマップは、絵で終わってしまいます。
段階の数に正解はありません
「認知・興味・比較・決定」の4段階、あるいは購入後まで含めた5段階といった型を見かけます。ただ、段階の数に決まった正解はありません。
自社の商品の検討期間が長いのであれば、比較検討の段階を2つに分けたほうが実態に合います。逆に、その場で決まる商品なら3段階で十分でしょう。型に合わせるのではなく、実際の顧客の動きに合わせて刻んでください。
マップを作る目的はチームの認識をそろえることです
作り方に入る前に、目的をはっきりさせておきましょう。ここが曖昧なままだと、作業が図を仕上げることに向いてしまいます。

担当者ごとの思い込みを可視化する
同じ会社にいても、顧客がどう動いていると思っているかは人によって違います。営業は問い合わせ前に電話で相談されると思い、マーケティングは資料を読んでから来ると思っている、といったずれです。
マップを一緒に描くと、このずれが表に出ます。図が完成する前の、この議論こそが目的だと考えてください。
施策の抜けと重なりが見える
段階ごとに自社の施策を並べると、力の入り方が偏っていることに気づきます。サービスの紹介ページはあるのに、そこへ橋渡しする記事が1本もない、という状態はよくあるものです。
逆に、同じ段階に似た施策が重なっていることも見えてきます。メディア全体の設計を見直すときの土台にもなるでしょう。オウンドメディアの全体像はオウンドメディアとはで解説しています。
社外のパートナーと前提をそろえる
制作会社や広告代理店に依頼するときにも役立ちます。マップを1枚共有すれば、「どの段階の人に向けた施策なのか」の前提が一度で伝わるからです。
前提がずれたまま進むと、できあがったものが期待と違うという事態を招きます。発注前に共有しておくと、後戻りをかなり減らせるでしょう。
作り方は骨組みから肉付けする順番です
作る順番には型があります。いきなり細部を書き込まず、大きな流れから決めていくのが要点です。

まず時系列の骨組みを作る
先ほどのNielsen Norman Groupの解説は、作り方の順番をこう述べています。ユーザーの目標と行動を時系列の骨組みにまとめることから始め、次にその骨組みへ思考と感情を肉付けして、一つの物語を作り上げる、という流れです。
最初にやるのは、顧客が取る行動を時間の順に並べるだけです。「検索する」「資料を見る」「社内で相談する」といった動作を、思いつく限り左から右へ置いていってください。
| 工程 | この段階でやること | やらないこと |
|---|---|---|
| 1 骨組み | 顧客の行動を時間の順に並べる | 感情や施策を書き込む |
| 2 肉付け | 各段階の思考と感情を具体的な言葉で書く | 「不安」など抽象語で済ませる |
| 3 接点 | 自社と出会う場所を書き添える | 接点のない段階を無理に埋める |
行動に思考と感情を肉付けする
骨組みができたら、各段階でその人が何を思っているかを書き添えます。ここが最も価値の出る作業になります。
「この会社に頼んで大丈夫だろうか」「上司にどう説明しよう」といった内心の声を、できるだけ具体的な言葉で書いてください。抽象的に「不安」と書くだけでは、次の施策につながりません。
このとき気をつけたいのが、社内の憶測だけで埋めてしまうことです。会議室で想像した心理は、たいてい自社にとって都合のよい形に寄ってしまいます。
防ぐには、すでに社内にある材料を持ち込んでください。問い合わせフォームに書かれた文章、商談の議事録、そして解約や失注のときに聞いた理由が材料になります。
こうした記録には、顧客が実際に使った言葉がそのまま残っています。付箋に書き写して貼るだけでも、憶測との差ははっきり出るはずです。
タッチポイントを書き添える
最後に、各段階で顧客が自社とどこで接点を持つかを書き足します。検索結果、記事、資料、メール、商談といった接点です。
ここまで書くと、接点が1つもない段階が浮かび上がります。その空白が、次に手を打つ場所になります。
コンテンツ監査からトピッククラスター設計、KPI・CVR設計まで、検索流入と問い合わせにつながるメディア戦略を整えます。記事は増えたのに成果が伸びない、という企業向けのコンサルティングです。
各段階に置くページを決めます
ここからが本題です。当社は東証上場企業のSEO支援も手がけていますが、規模を問わず成果につながるのは、段階と受け皿を対応させる作業まで進めたときでした。

段階と受け皿を1対1で対応させる
ジャーニーを描いたら、各段階にどの種類のページを置くかまで決めてください。段階と受け皿を1対1で並べると、記事の企画表がそのまま出来上がります。
| 段階 | その人の状態 | 置くページ |
|---|---|---|
| 認知 | 言葉の意味すら知らない | 用語や仕組みを説明する記事 |
| 興味 | やり方を知りたい | 手順や進め方を示す記事 |
| 比較検討 | 頼むかどうか迷っている | 選び方の基準・費用の考え方を示す記事 |
| 決定 | 社内を通す材料が欲しい | サービスページと問い合わせ導線 |
段階ごとに置くものが違うのは、同じ人でも求めているものが変わるからです。Googleも有用で信頼性の高いコンテンツに関するガイダンスの中で、想定する読者が直接訪れたときにそのコンテンツを有用だと感じてくれるか、という自己評価の問いを挙げています。段階ごとにこの問いを立て直すと、置くべきものがはっきりしてきます。
段階と検索の言葉のつなげ方は検索意図とはもあわせてご覧ください。
決定の段階で置くもの
最後の段階で人が止まるのは、情報が足りないからではありません。決めるのが不安だから止まっているのです。
ですから決定の段階に置くべきものは、追加の説明ではなく判断を助けるものになります。選び方の基準、失敗しないための観点、そして料金や条件の明示が挙げられるでしょう。さらに問い合わせボタンのすぐ近くに「無料」「営業のご連絡はしません」といった一言を添えるだけでも、心理的な障壁は下がります。
穴が見つかることが最大の収穫
この対応表を作ると、たいてい穴が見つかります。認知の記事は20本あるのに、比較検討の段階を支える記事が1本もない、という状態です。
穴が見つかったら、それが次に作るものになります。むしろ、穴を見つけることがマップを作る最大の収穫だと考えてください。記事全体の組み立て方はコンテンツマーケティングの始め方で扱っています。
形だけのマップにしないために
最後に、作ったマップが使われずに終わるのを防ぐ話をします。過去に一度作って終わった経験がある方には、ここがいちばん役に立つはずです。

きれいな図を目指すと欠陥が残る
Nielsen Norman Groupは、はっきりと警告しています。ジャーニーマップを作るという活動そのものが、成果物ではなく、プロセスの中で最も価値ある部分であることが多い、という指摘です。
同じ解説は、見栄えのよい図を作りたい、あるいはすぐデザインに飛びつきたいという誘惑が、美しいけれど欠陥のあるジャーニーマップを生みかねないとも述べています。テンプレートを埋めることに気を取られると、いちばん大事な議論が抜け落ちてしまうのです。
作った人しか読めない状態を避ける
使われなくなるマップには共通点があります。図が凝りすぎていて、作った本人以外には読み解けない状態になっているのです。
付箋を貼った紙のままでもかまいません。毎回の企画会議で開かれるマップのほうが、額に入れて飾れそうな図よりはるかに価値があります。
実際の動きと突き合わせて分析する
マップは想像で描いた仮説です。ですから、実際の顧客の動きと突き合わせる分析の工程が要ります。
難しく考える必要はありません。問い合わせに書かれてくる質問の内容、記事がどの言葉で見つかっているか、どのページから次に進んでいるか。この3つを眺めるだけでも、マップとのずれは見つかります。
探すのは「想像で書いた心理と、実際の言葉が違っている箇所」を1つだけで十分です。たとえば比較検討の段階で費用を気にしていると書いたのに、実際の問い合わせでは納期の質問ばかりだった、という具合です。1つ見つかれば、次に直す場所が決まります。細かい数値の追い方は状況によって変わるので、まずはこの3つから始めてください。
見直すきっかけを決めておく
「定期的に見直しましょう」という言い方をよく見かけますが、期間を決めるだけでは実行されません。見直すきっかけを、出来事に結びつけておくほうが動きます。
新しいサービスを出したとき、問い合わせの内容が変わったとき、四半期の振り返りをするとき。こうした場面をあらかじめ「マップを開く日」として決めておくと、自然に更新が回り始めます。
今泉の視点:私はカスタマージャーニーの出来を、図の美しさでは判断しません。見るのは「穴が見えたかどうか」だけです。整った図ができあがっても、次に何を作るかが決まっていなければ、その作業には意味がありません。逆に、手書きの粗い線でも「比較検討の受け皿が空っぽだ」と分かったなら、それは成功したマップです。ご相談の場では、完成した図を見せていただく前に「これを作って何が足りないと分かりましたか」と伺うようにしています。
カスタマージャーニーのよくある質問
まとめ
- カスタマージャーニーは、顧客が知って迷って決めるまでの道筋
- ペルソナが「誰か」、ジャーニーが「その人がどう動くか」
- 目的は図の完成ではなく、チームの認識をそろえること
- 各段階に置くページを決め、穴を見つけるところまで進める
まず取りかかるなら、紙を横に置いて、顧客が取る行動を左から右へ並べてみてください。そのうえで各段階に自社のページを当てはめると、どこが空いているかがその場で分かります。
誰の道筋を描くかが決まっていない場合はペルソナとはから先に読み進めるとスムーズです。
コンテンツ監査からトピッククラスター設計、KPI・CVR設計まで、検索流入と問い合わせにつながるメディア戦略を整えます。記事は増えたのに成果が伸びない、という企業向けのコンサルティングです。
